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友情

男達の恋挽歌  親子二代

親子二代、
久しぶりに時間を割いてある眼科医院へ出向いた。

何日か前は私の命を預けている内科医院を訪ね、
しつこい風邪退治「風邪よ大概にせよしつこいぞ!」
院長先生笑ってござった。

親子2代、私の息子と小中同級の2代目院長、立派に
なった、親父先生が生きていたら、

「Sさん二階へおいでよ ?」と美味しいコーヒーを
飲ませてくれただろう。

先代とは日赤病院の眼科の先生の時代からの付き合い、
おおらかだが情のある医師だった。

子供の話をすると目に涙を溜めて相槌を打った !
私はこんな男に弱い、だから気が合った、後継息子の
良い面だけでなく、不満気な話もしてくれた。

良い男は早死にする、その死は50過ぎではなかったか、
悔やまれる。

親父とは一味違った2代目、穏やかだがたまに見せる
看護師への叱責は、逆に安易な2代目でない事を知り、
先代の為に、私は安堵する。

良いんでないの ?  上等だ !
舐められないことも成功の秘訣、行き過ぎない限りはね。

「変わりないですね、様子を見ましょうか  ?」まるで
親戚の叔父ちゃんに言うような2代目院長、そうだぜ !
不始末アレャ ! おいら怒るぞ !  親父代わりだもんな。

診察室いっぱいの子供主体の患者さん、繁盛している !
院長の笑顔に背を向けて玄関を出た、

「Sさん、診察済んだ  ? じゃあ ! 2階へおいでよ ?」
玄関脇で遠慮気味に煙草を燻らせていた先代が、そっと
私に声をかけてくれた。

彼の自慢のドリップコーヒー・・・
男同士のひと恋挽歌 !

子を想う親父の浪花節 ! 私はあの日、佇んで煙草を
くゆらせていた男先生の幻に答えた。

「お邪魔しますよ ! T君、良い医者になりましたね !」
笑顔の目がにっこり笑った、だが少しだけ寂しさを湛えて
いる。

「Sさん! まだ孫の顔が見れんのよ ?」
立ち話の2人に遠慮するように医院の玄関ドアが開いた、

小さな子供が半泣きで出てきた、我慢していたのが、
外に出ていっぺんに緊張が解けたのだろう ?

幼き日の、息子KとT君の無邪気な笑顔が重なった、
夕焼けが、あの2階の窓ガラスを照らしていた。

「O先生 ! もう少し待ってや・・・」
たぼこの煙が、笑顔の主がいる天国に向かって緩やかに
昇っていった。

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