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思い出

太郎の秘密

性格と言うものはなかなか直るものではない、

細胞に組み込まれた遺伝子はちょっとやそっと方向回転

してくれない。

「お前の性格はひねくれていてどうしょうもないの?」

親父が匙を投げて愚痴をこぼした、

ところがそれを聞いていたおっかさんがよせばいいのに

横から口を出した、

「それはあんたのことさ、よく言うよ ?」

黙って飯を食べていた息子が舌打ちをしたとたん雷が落ちた、

「何だと、どの面下げて物を言う、今日は我慢できんぞ?」

癇癪もちが頭から湯気を出した、

(ああ! よせばいいのにおっかさん 似たり寄ったりだ!)

息子の頑固はこのふたりから受け継いだもの、筋金入りである、

「おい、太郎に係わると何処からとばっちり来るか判らないぞ

係わるな ?」

長年の友達さえ匙を投げる、

ところが不思議なことにひとりだけ太郎が素直になる男が居る

どんなに怒っていても次郎が傍に来るだけでおとなしくなる、

何故なんだ  ? 一度仲間内で話題に上った、

小さい頃からの遊び友達ではあるが何故にもこう素直になれるのか

仲間で旅行に行った時のことである、

温泉街のみやげ物屋の角にひとりの占い師が座っていた、

酔いの回った面々が冷やかし気分で取り囲んだ、

この占い師が面白かった、漫才師かと間違うほどの話し上手

これには渋面太郎も笑い転げた、

どうなったか?

話し上手は聞き上手、太郎と次郎はまな板の鯉、みごとに調理され

申した。

ふたりが、まだ幼い頃の話、有る夏のこと、家から15分も歩くと

村の外れに出る、

ちいさな岬を回ったところに砂浜が有る、それが子供達の海水浴場

子供達何人かで泳いでいたが突然太郎の悲鳴が上がった、

その後を追うように次郎の泣き声が響いた、

他の子供達はいっせいに砂浜へ戻ってふたりに視線を這わした、

太郎と次郎は股間に手を当てて泣きじゃくる、

そこへ担任の女の先生 和子先生が自転車で通りかかった、

「どうしたの、ふたりとも?」

「先生、やくらげにかまれた!」 田舎の方言で毒を持ったくらげの

ことを、やくらげと言う。

和子先生は、ふたりをやや大きめの岩陰につれていった、

男同士、くらげにかまれた股間に勢いよく交互に小便をかけさせた、

アルコ-ル消毒の代用をさせたのである。

その時、和子先生、はたち過ぎ、花も恥らう乙女成り、

和子先生が言いました、「太郎君と次郎君、先生と3人の秘密よ

誰にもいっちゃいやよ!」

この時の、誓いがふたりの絆を強めたのである、

何故、太郎はそれでも次郎に頭が上がらないのか、素直になるのか?

そうなのです、和子先生のひとつの過ちが此処にありました、

泣きながら小便を掛け合うふたりに、つい出た言葉・・・

「太郎君のオ〇ン〇ン 次郎君より可愛いのね?」

太郎の純真が小刻みに震えた、次郎への恥ずかしいだけの劣等感、

男って奴は、些細なことで心に引っかかる、

まだうら若き和子先生に男の子の微妙な胸の内が判る筈もなかった、

秘密を握られた弱み、それが大人になっても消えなかったのである。

秘密の共有、和子先生との3人だけの秘密、甘酸っぱい思い出に

ふたりは結ばれていたのである。

通称、我慢太郎、又の名 すっぽん太郎、今も田舎で意地を張っている、

女房の友恵が言う、

「お父さん、いうこと聞かないと次郎さん呼ぶわよ ?」

弁慶の泣き所、男 太郎 古希を迎え 今もって健在成り。

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