感性
暑い陽射しが窓から差し込む車の中でふっと、あの夜を思い出していた、部屋の外の小さな庭に一本の樹が雨に打たれていた。
何も言わず、何も語らぬその樹は、私の心を知っていた、帰りたくても帰れない、戻りたくても戻れない、そうシャボン玉のように、淡く消える ?
ひとり寝の侘しい個室は、心を締め付けるように疼いていた、枕辺の抗がん剤の入った白い薬袋が男の覚悟を促していた。
死にゆく者、それはこの俺 ! 雨に語りかけていた私 !白いラベルの長渕剛全曲集、ある歌で私の胸は反応した、
戻りたくても戻れない、帰りたくても帰れない ♪
バックのドラムの響きが弧線を震わせた。
「ズンズン !」 負けるな進め! なんのこれしき !長渕剛が鼓舞する「諦めるな! 下がるな前え え !」私はその時、初めてドラムという楽器の暖かさを知った。
皆さんも気を留めてください、この楽器の隠れた力を !特に弱気になった時、あなたの沈んだ心を叩いてくれる。
感性 ! 感じる力、感じる想い ! 共感、共鳴 !私はこうしてドラムに救われた「負けるな!泣くな !」
歌は、深層心理の中であなたを支えている、泣き崩れる程の弱気にハッパをかける、私には長渕剛の歌が感性を刺激してくれた、「帰るぞ! 負けてなるものか !」
それは生きる道しるべ、弱気を鼓舞する応援歌だった、車のカセットは常に長渕がいる、
「又、会いましたね ! 今度は他の人を支えて下さい!一度、故郷の鹿児島「桜島ライブ」へどうぞ !」
感性! 男の感性 ! 負けじ魂 !
嬉しかったら困った人に手を差し伸べよ !ドラムの魅力、深層心理の中に亡き兄の「白バラ楽団」が演奏していた、
奇しくもそのドラムに向き合っていたのは長男の兄の姿だった、白バラ楽団の名ドラマーそれは愛憎伴った兄の姿 !
あの雨の夜、耳を澄ませる私に届いたドラムは、亡き兄の
弟の病気全快を願う、渾身のドラムだったのではないだろうか。
車内で長渕剛の ♪ 乾杯 がスローなドラムで聴こえて来た。
「ズーンズーン!」そのドラムの音がさらに大きくなった !?