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思い出

窓辺のシンデレラ

窓辺のシンデレラ

「Sさん、たら !」電話の向こうで女が泣いた、人から親切にされたことのない薄幸の女性A子、それが悲しい彼女の子供時代だった。

親戚の家をたらい回し、同級生の従姉妹がいたが従姉妹は両親に猫可愛がりで育った、伯母の視線はキツかった。

彼女は昼は商店街で働き夜は夜間高校へ通った、屋根裏の暗い小さな部屋をあてがえられた。

でもそこは、彼女にとって唯一つの安息のシンデレラになれる部屋でもあった、辛い時に小さな窓辺に飛んで来る小鳥に癒された。

雀はあどけない目をしていた、少しのエサを与え水を飲ませてあげた、網戸とサッシの間のわずかな隙間につがいの相手を呼んで来て一緒に住むようになった。

彼女の心境の変化の芽生えだった、

「こんないたいけな雀でも夫婦になれる相手がいる?」世の中に絶望していた彼女の心に何かが芽生えた。

もしかして、こんな私でも好きになってくれる人がいるかも知れない、彼女の心に何かが弾けた、そんな時に私達は出会ったのである。

寒い日だった、店を開く準備をしていた私の目に、小柄な女の子の姿が目に止まった、自転車の前輪を見つめて途方に暮れていた ( どうしよう  ?)

その素振りに私は声をかけた「どうしたの  ?」戸惑いながら恥ずかしそうに「自転車がパンクして  ・・・」

私は側によってその箇所を眺めた、小さな釘が刺さっていた、「ここの大家さんがその角を曲がった所で自転車屋をやっているから直してもらってあげるよ  !」

彼女は18歳、化粧っ気のない頬の肌の綺麗な乙女だった、彼女は諦めながらそっと心に思った人がいた、一度だけ恥ずかしそうに話してくれた事がある、はじめての恋、それも叶わない初恋、ボタン雪が彼女の頬を染めた。

電話で「思い切って告白しなよ  ?」と肩を押した、電話の向こうで  「Sさん、たら !  もう   ?」声が震えていた。

雪の舞う季節が過ぎて、春の陽射しが柔らかな季節がそこに来て、校庭の桜の花びら🌸が  ♪  蛍の光 の旋律にフワリと舞い踊った。

電話が・・・彼女からかかって来た、

「東京に就職します!  夜間高校の先輩が誘ってくれたの  !」それ以来彼女の消息は途絶えた、心の片隅に、そっとはにかむ乙女(女性) がいる。

生きていれば、もうおばあちゃん  ?  どんな人生を歩んだであろうか   ?   良い人に巡り合っていれば良いが   !

眉を曇らせたあの顔が切ない、胸が痛くなった。

「Sさん、たら !・・・」 あの声をもう一度聞きたい     !他の女性は、まず私のことをマスターと呼んでいた、

しかし、何故か彼女だけは一度としてマスターと呼んでくれたことはなかった、

世界一、幸せな人生であって欲しい、港町を忘れないでよ、

台風19号が、毎日、真面目に生きる人々を苦しめて通り過ぎた、亡くなった人、行方不明の人、自然の気まぐれが一生懸命生きる人々から幸せを奪った、濁流が恨めしい !

辛いなぁ !

慎んでお悔やみ申し上げます。

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