荒野を行く孤独
木枯らしの吹く寒さの中に佇むと友の嘆きが蘇る、風邪の症状も峠を越えて身体に元気が戻って来た。
彼は元国家公務員、大勢の公僕の中の一員だった、我々から見れば仰ぎ見る高みに到達した栄達の人、何不自由のない身の筈である。
それは、私達からの尺度での話、彼らには彼らなりの未満もやり残した悔いもあったのである。
定年を迎え毎日が日曜日、至れり尽くせりの定年後の処遇は、我々庶民では味わえぬ贅沢なものである。
私との電話で彼はポツンと言った・・・
「おい! Sよ! 毎日充足しているか、淋しくないか?」仕事で外国住まい数度、奥方同伴の海外赴任はまるで王族気分、私達にとって羨ましくも憧れの存在だった。
その彼が黄昏を迎えてポッカリと心に穴が空いた気分 ?現役時代の激務と定年後の日々これ日曜日の落差に戸惑う彼の姿がそこにいた。
私には言うべき言葉がない、現にそのような王族気分を味わった事がそもそもないのである、黙って彼の愚痴を聞いていた、今度、暖かくなったら逢いに行くからな! せめてもの慰めを伝えた、
人間とは何だろう ? 人生とは ?
ありあまる富を手にして尚且つ不平不満が胸を打つ ?「もっと社会の底辺に目をやれば、そして世界を見るのよ、君が行ったアフリカの原住民の惨状を思い出すのさ !」
「今、与えられた幸せに感謝する筈だよ !」「そうだね ! ・・・」
私の言葉に彼はそう呟いて「ありがとう元気が出たよ !」と答えた。
令和2年が始まったばかりなのに世界情勢が不穏な空気を見せる、イランのレイマニ司令官殺害は、世界中が息を飲んだがアメリカ、イランとも理性を保ってホッとしている。
そうなると北の情勢に世界の視線が戻ることになる、トランプ大統領の次の手に視線が集まる、北が見誤ると大惨事になるかも知れぬが、道連れという悪夢を呼び込むことにもなる。
荒野を行く孤独、
私は友の背中を見てこのように形容したが、それは彼だけでなく私を含めて多数の人々の明日かもしれない。
荒野へ手を携えて行ければ良いが、灼熱に放り出される孤独、あなたは耐えられるか ?
衆と共にあった私達、友はいつまでも横にはいない、気がつけばひとりぽっち、果たしてあなたは耐えられるか !?