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フィクション, 思い出

まどろみの中で

まどろみの中に夢を見た、 

桟橋に立つ男がひとり、遥か沖合の島を見ていた。

軍の武器貯蔵庫の島の上空で日米の戦闘機が空中戦、火花を散らして戦った、私の幼少の頃その記憶はない。

大人たちから聞く後日談は、日本の飛行機が勝ったという、遠く離れた日本に来て故郷に帰る事もなく 墜落された敵のパイロットに想いが向くのは戦後である。

待ちわびる家族の元へ帰ることのできなかった米軍パイロット、この時こそ戦争の悲劇が身近に感じられたことはない。

戦後の昭和38年春、その日は町全体が白銀一色に覆われたまるで空も海も凍るような雪が降り続き人々の足を奪った。

「寒いな   !」

両の手に息を吹きかける男の手はかじかんで硬直していた、その時沖合から小さな沿岸船の船影が目に入った、船は息絶え絶えに入港を知らせて汽笛を鳴らした。

ところが接岸寸前に沿岸船は向きを変えた、沖合の小さな島へ舵を切ったのである、その船上に戸惑い気味で半泣きの少女の姿が見えた。

呆然とする男の耳に、哀しげに泣く汽笛の音だけが響いた、なのに船着き場の大人たちは何事もないように作業を続けている、必死に抗議する男に耳を貸す者はいない ?

沿岸船の船影が小さな島の入り江に消えた、何事もない静寂が辺りを支配していた、その時である西の方角から見慣れない戦闘機が低空飛行で迫って来た。

男は、思わず引きつるような叫び声をあげた   !

「沿岸船が!  沿岸船が !  島に入ったよ!  危ない   !」

少女の身を危ぶんだのである。

「バリバリ!」  空気を引き裂く機銃掃射の音 !男は思わず身体を伏せて耳を塞いだ、「わぁ!」 沿岸船が蜂の巣になった様子を想像した。

西の空が真っ赤に燃えるように感じた、どのぐらいそうしていただろうか   ?  静寂はとてつもなく長かった。

突然誰かの叫び声がした、「危ない !」

「キィ~ !」   急ブレーキの音が耳に突き刺さった、白い子犬を連れた幼子の引きつった顔が目に入った。

樹々の間から沈む太陽の残り陽が差し込んでいた、

男は、公園のまどろみの中で、過ぎ去りし彼の日を夢見ていた             !?

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