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思い出

男たちの挽歌 大島慕情

大島 慕情

もう滅多に故郷へ帰ることはなくなったが、それでも春のお彼岸には努めてお墓詣りをすることにしている。

選果場の前に車を止めると遥か沖合に大島が見える、その大島から沢山の若者達が私の居酒屋に来てくれた。

穏やかな島の生業に同化してそこに住む人々の人間性は素朴で心温まる人が多かった、我が県の県議会議長になった先輩の母君もこの島の人で先輩は終生母の故郷を慈しんだ。

私が居酒屋を経営していた頃のことである、

どの四季だったか記憶の彼方に遠ざかったが、その場面は鮮明に残っている。

小柄だががっしりとした漁師のA君がドアを開いて入って来た、決まり悪そうに顔はうつ向いて、彼の顔が異常にボコボコに腫れあがっていた。

「どうしたの   ?」

その事情は瞬間に察したが、彼に配慮して問いかけた   ?おずおずと座る彼の返事を私は待った。

漁を終えたA君は大島の対岸にあるM町に船を入港させた、狭い田舎町は私の住む八幡浜市の隣町、他町村と離れた位置もあってお互いの行き来は限られていた。

いわば、孤立した町でもあったので人の出入りは少なかった、彼は、町のパチンコ店に向かった、途中数名の地元の若者とすれ違ったが、キツイ視線は浴びたものの異変はなかった !

パチンコを終えた彼は表に出た、その時である数名の若者が彼を待っていたように取り囲んだ、理由は何んでもつけられる、お決まりのパンチが雨あられのようにA君に襲いかかった。

見かけは強面だが心優しい彼は為すがままに叩かれた、飛んで火に入る夏の虫  !  彼の自尊心も心の張りも消し飛んだそのしょげっぷりは痛々しかった。

そのしばらく後、味をしめたM町のチンピラ達は、再び狼藉を繰り返すが今度は相手が悪かった、その件でM町の兄貴分から私の元に電話が入った。

その町一番の喧嘩のプロ、B兄からだった、通称B  !

近隣に恐れられた男、駐在所へ猟銃を持って入ったほどの豪傑である、「ワシは人を殺しても罪にならん!」そう豪語していた男である。

今回の相手は、空手の強者Cと身体は小柄だが喧嘩度胸に秀でた男D、私とは二度に渡って合間見えて意気投合した男だった。

いろんな事情が有って顔のきくE氏が仲裁に入って事なきを得た、故人になった者もいるが多数は存命中により仔細は割愛する、

大きな街に限らず小さな町でも諍いは起きるものである。

どう後始末をつけるか、仲裁役の器量がその後の交友関係に響く!故郷の墓参り、選果場に車を止める度びに大島を眺めて想う   !

A君の悔し涙、それを流させた相手はその後の仲裁の席に参列した野郎達、本当は気の小さなイケズ野郎ども、1人では喧嘩のできない小心者たち。

それぞれが家庭を持って真面目に生きた事だろと思うと何故か苦笑を禁じ得ないが、懲りずにやっていれば、相手を見くびる余りやられて痛い思いをした事もあるのではないか。

その頃から八幡浜市は空手の極真会館隆盛の時が始まるのである、極真の道場生に腕試し・度胸試しに有ったのではないかと思うと愉快でならない。

男たちの挽歌  大島慕情            !?

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